絵本『ありさんどうぞ』
作者中村牧江さん、林健造さんにインタビューしました!

「小さな穴から出てきたありさんを、夢中になってみていたら・・・!?」
地面のありを飽きることなく眺めていた、子どもの頃の記憶がよみがえってくる様な絵本『ありさんどうぞ』。絵本の真ん中を、はじっこを、行列を作って縦横無尽に歩いていくありさん達のその様子は、一目見ただけでもワクワクするのです。
作者は中村牧江さんと林健造さん(ご夫婦です)。おふたりの最初の作品が『ふしぎなナイフ』だと聞いて、ピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんね。それまでは広告関連の仕事をされていたおふたりが、どうして絵本を制作されることになったのでしょう。そして、最新作『ありさんどうぞ』のアイデアはどこから生まれてきたのでしょう。
貴重なお話をたっぷりお伺いすることができました!お楽しみください。
中村牧江(なかむらまきえ)
東京都生まれ。コピーライターとして、コピー宣伝会議賞銅賞、順朝日広告賞、日経広告賞最優秀賞、東洋経済広告優秀賞などを受賞。日本産業広告賞、毎日公共福祉広告賞など入選。ガイドブック『るるぷ』(JTB)ネーミング。
絵本作家として、林建造氏との作品に『ふしぎなナイフ』『もしゃもしゃ』(福音館書店)、『ちがうのだあれ』『ちかくにいるのだあれ』(ひさかたチャイルド)『てをみてごらん』(PHP研究所)『都市の人びと』(イーテキスト研究所)、『ありさん どうぞ』(大日本図書)がある。
林健造(はやしけんぞう)
愛媛県生まれ。グラフィックデザイナーとして、準朝日広告賞、カレンダー工業技術院長賞、日経広告賞最優秀賞などを受賞。ワルシャワポスタービエンナーレ、セントラル美術館版画大賞、毎日公共福祉広告賞など入選。装丁家として書籍を多数手がけ、絵本作家としての作品は、中村牧江氏に同じ。
■ 絵本『ありさんどうぞ』誕生のきっかけ
―― お二人の新作絵本『ありさんどうぞ』。この作品がアイデアとして出てきたきっかけを教えてください。
中村牧江さん(以下中村、敬称略):きっかけはね。(林健造さんが)イヌやネコなど、動物の絵を練習で描いておりまして、その中にたまたまありの絵も描いてあったんですよ。これをこうして、こうやったらありらしく見えるとか、そんな感じですね。その描いている絵を見ていて、私が、「ありの行列だけで絵本を作ったら面白そう!」と思ったんです。ありを、全部のページの初めから終わりまで、本の隅を這わせていって、行列だけで本を作ったら面白いんじゃないか、って。だから(林さんに)「本の全部の端を歩かせて、ありの絵本を作ってみない?」って言ったんです。そしたら、すぐ乗ってきてくれたんですね。

それで、最初にありのレイアウトを思いついて。
というのも、自分が小さいときに、部屋の隅をありがずっと這ってたことがあるんですね。たどっていったら台所の砂糖つぼのところに来てたんです。そのたどって見ていたという経験があった事と、やっぱり子どもの頃、しかられて庭にしゃがみ込んでいたような時に、ありを見ていたら、みんな上手に花壇の縁などを通って、端っこをずっと迷いもなく行くわけですね、列が。そういうイメージが思い出されたものですから、バックの情景とかは全部取っちゃって、シンプルに本の端っこだけのレイアウトでいったらいいんじゃないかと言ったんです。大体ふたりともシンプルなのが好きだという事もあって、「それ、いこう。」という話になったんです。
―― 中村さんは、コピーライターという仕事をされていたという事で、どんな風にアイデアを思いつかれるのかというところに興味を持ちます。やっぱりパッとひらめくような感じなのでしょうか?
中村:そうですね。やっぱり広告の仕事をやっていた時に、文と絵とをいつも同時に考える癖が付いてるようなところがありまして。それこそ、パっとね。これがこうなっていくから、こういう画面になるっていうのが浮かんでくるんですね。それで、暗黙の了解といいますか、(林さんが)どういう画面を作るのが得意かというのは分かっていますので、あまり複雑化しないで。そこから一気にストーリーを考えていきました。

『ありさんどうぞ』 中村牧江・さく 林健造・え 大日本図書刊
■ やっぱり主役はあり!
―― この絵本の主役と言えば、やっぱりありですよね。絵を担当されている林健造さんがありの行列を描かれることになって・・・。
林健造さん(以下林、敬称略):やっぱり僕も、子どもの頃ありを見ていた記憶はあったんですが、足の形はどういう形をして、どう歩いてるのか、それから、触覚は本当はどうだったのかなって意外と覚えてないんですよね。

それで、高尾の方に行った時に瓶を用意して、そこに土を入れて、できるだけ観察しやすいような、大きなありを3匹ぐらい入れて、ありに悪いですけどふたをして・・・。
持って帰って、よし、やるぞということでスケッチブックに描こうと思ったんです。ところが、アリが瓶の中でパニックになっていたんでしょうね、ものすごい速さで動き回るんでなかなか観察できないんですよ。どうなってるんだ、どうなってるんだって何回も見て、ちょっと描いてはまた見てね。それで、触覚はこんなにあちこち動き回るんだとか、足の6本は、どこから足が出てるのかな、というのを見てね。歩いてる感じはなかなか観察できなかったんですけどね。大体分かったと。それで、描き始めたんです。そこからスタートして、ストーリーに合わせて描いてみて。上の方を歩いたり、斜めに歩いたりしたらどういう形になるか。まっすぐや、上から下からというのも描いてみたりしてね。更に、どういう技法で描くかというので、サインペンのような勢いの出る物でぱっと書いたほうがいいんじゃないかなって。それでいっぱい描いて並べたりしたんですね。
―― かなり時間がかかったのではないでしょうか?
林:描くのはそんなに時間がかからないです。こんな小さいですしね。それで仕上げていって、担当編集者に「できました」って渡したんです。
ところが、全体の流れは良かったんでしょうけど・・・。何だか力が入りすぎて、足とか何かがね、気持ち悪い様な気がして。実際に、ありの足は直線じゃなくて、関節の所で一回折れて、あちこち動いてるんですよ。足の先も結構長くて。それをかなりリアルに描いていたんですね。
中村:ちょっと不気味でしょう、足がね。比べると分かるんですよね。

▲最初のラフ。更にズームして・・・

▲左が最初のラフの中のありさん、右が絵本の中のありさん。比べてみると、確かにシンプルな形になった事がわかりますね!
林:それで、やっぱり編集さんに「全部描き直したい」って電話したんです。その後ね、これ気持ち悪いからどうしたらいいかなあって。ある朝、1匹描いたんですよ。「あ、これだな」と思って。それから、一匹一匹行列を作ったときには、その違いをどうするかということで描いていってみたら、大体いけるなと思って全部描いて。それで、また編集さんに電話して「何が何でも、これを全部描きかえたい」と言ったんです。そうしたら「えー」って。
一同:(笑)
編集者:この最初の方の案で、すごく素晴らしいと思っていたので、どうなるんだろうと・・・。
林:なぜいけなかったのかと言うと、やはり、ちょっと気持ち悪いっていうのと、足の印象がクモのイメージにちょっと似てるんですよね。
中村:意外と、足が6本よりもすごく沢山あるような感じになって、もじゃもじゃしているふうに見えちゃうんですよね。虫の好きな子だったらいいけども、嫌いな子が見たら、ちょっと何か、ぞぞっとするっていうのがあるんじゃないかって。
林:だから、足なんかをだいぶシンプルな形にして。でも、子どもだからと言って、6本出さなかったりというのは良くないと思っているし、おもちゃっぽくもしたくない。やっぱり、ありが本当にここにいるんだというふうに、現実のありに見えるようにしたい、と思って。それで出来上がったんです。結果的には、編集さんも、(大日本図書)社内でも、こっちのほうがいいということになったんですよね。
中村:人によっては、これ(絵本になったほうのあり)は、関節もないしって思う人もいるかもしれないけど。実際、目のところだってこんなに白くはないですし。だから、ある程度はやっぱり絵のありなんですよね。ちょっと表情があったりもしてね。
―― でも、やっぱり並んで歩いている様子とか、すごくリアルな感じがするんですよね。写実の部分と、絵の部分のバランスが面白い。
林:一匹一匹、これは誰々なんてね、名前をつけるわけじゃないですけど、そういう気持ちで、ちょっとずつ変えながら描いていってね。目も下向いたり、細かったりというのがあったりして。ただ、あまりそれを描きすぎて、ばらばらなイメージになっちゃいけないから、本当にちょっとずつ。
中村:でも、結局はみんな似てるのは似てるのよね(笑)。いつも描いてると、だんだんなれてきてしまって、足の位置も同じになってきて・・・。
林:そうなんだよね、みんな同じに見えてくる。
中村:よくよく見ると違うんですけど、似てるけどちょっと違うみたいなね、その辺ですね。
―― 送られてくる入稿のデータには、このありに全部、何ページの何番という番号がふられていたそうで、担当編集者さんもこれには驚かれたそうです。「そうか、みんな違うんですもんね」と思われて。ところが・・・印刷する段階で大変な事が起こったそうで!?
編集者:途中で、「いるはずのありが1匹入っていないんですけど」と、印刷所の人に言われたんです。「ええっ?」ってことになって。「ここのありが出ません」と校正紙を見せられて。それで「探します探します、ありを」って。
中村:編集さんが一番大変で。
林:表情が違うな、と思って描き直したのを入れ替えたんですよね。最後に「入れてください」って言って。そしたらね、1匹だけどっかに行っちゃってて(笑)。もしデータに1匹いなくてもね、印刷で出てこないから。それでひとつ入れ替えたら、何番のありも、もうありの姿を見たらみんな同じに見えちゃって。ちょっと違うな、短いとか長いかとかね。目の動きがちょっとこっちかな、なんて言ったらそれがまた違ってたりする。
一同:(笑)。

▲写真ですとわかりにくいですが、絵本の中に出てくるありさん全ての画像を出力した資料も見せてもらいました。圧巻です!
編集者:探す時に一回一回画像を開いて、「あ、このあり違う、触角違う」とか、「このありでもない、このありでもない」って(笑)。
林:手順を間違えるとだめなんですよ。最初に絶対これをこう配置するって決めてからやれば良かったけど、やった後に「まてよ。これ、ちょっとビー玉の所のあり、これ変えようか」なんていった時にはもう・・・。それを3カ所ぐらいやるとわからなくなるんですよ。1つだけならいいんだ
けど、ページがかわると「あれっ、何番だったかな」って。

■ リアルな質感にこだわって
―― 最後のページは、すごくいいですよね。このクッキーがすごいリアルで美味しそう!というのは勿論、僕が、真上にいるんだっていう状況も浮かびあがってきて。
中村:そう、逆にそのかかわり合いみたいものがないと。ただ見るだけじゃつまんないですしね。このクッキーを描く時も、なかなか大変でね。
―― 実際に作られたとお伺いしました。
林:そうなんです。実際にクッキーを家で作って。それで金づちで割ったんです。
中村:ずいぶんいっぱい作って、幾つも砕いて。
林:少し大き目に作って、真ん中からパーンと割ってね、右の形は、これは残したいな、いいなっていう感じで、みっつぐらいをバランスよく選んでね。それで位置をある程度決めて、写真に撮って。それを見ながら書いたんです。
最初に描いた時はね、ひどいよねぇ、「泥に見える」なんて言われて(笑)。それから3回目にはね、「ジャガイモの皮に見える」って。ラベルも何もなくて素のままだから、素焼きと同じですよ。だから、断片描いていると自分の絵は石に見えてくる。ところが、現物を見ると、クッキーに見えるわけですよね。それで、技法も色々考えてみて。1回絵の具で描いて、そこに筆に水を付けてね、絵の具をブルブルってやって吸い取らすんですよ。で、もじゃもじゃとした感じが、クッキーに似ているんじゃないかなと思って描いて、1枚描いたらやっと「見える」って。更に粉をふいた感じでちょっと加えてみたりして。
これが自分のね、もうベストだと思って描きまして。自分は、二度ともうクッキーは描きたくないという感じで。
一同:(笑)。
林:質感が表せないと、ありがいくら来てもね。ありが「おいしい食べ物だな、甘い食べ物だな」というのを思わないと、絵本としてもまとまっていかないですからね。
―― ビー玉の場面もやっぱり質感にこだわって?
林:これはもう、ガラス玉だから、このガラスの感じを描くのは、クッキーよりは易しいですね。あんまり写真みたいにきれいに出来すぎちゃまずいから、一番きれいな出来上がりの手前の段階で。
―― 本当!よく見てみると、縁が少しぼやけて描かれているんですね。

中村:輪郭も真ん丸というのではなく、少しポチャってして。
林:これでもちょっと、きれい過ぎるのかもしれないですけど。「写真でしょ?」って言われる事もあるんだけど、やっぱり写真に見えちゃうとちょっと。「これ、描いたんでしょう」っていうぐらいのリアル感が一番いいんですけどね。
―― そのビー玉がありの行列に登場するシーンは鮮烈ですね。
中村:やっぱり最初に、赤い玉が目に入ったほうがいいだろうっていうことで、最初のところは赤のビー玉にしたんですね。
―― きれいに列を作っていたありさん達がパッとあちこちに広がる様子とか、また元の列に戻っていく様子なんかが、さり気ない事なんだけど面白くて。そういうのはやっぱり、実際に観察をされたりしたのですか?
中村:そういう観察は、小さい時に経験していますから。子どもの時は、「どうしてありは、前のありに付いて行くんだろう?」みたいに思いますよね。あれは、ありがお尻から誘因物質みたいなものを出すので、そのにおいで付いて行くらしいんですよね。小学校の何年生かの時に、それを聞いて、「あ、そうなのか」って子ども心に納得した覚えがあるんです。だから、迷わずに前に付いて行くんだって。
でも、ありの行列を見ていると、可愛らしいって思う時もありますけど、ちょっともの悲しいところもありますよね。ひたすら歩いて行くその健気さが、何か可哀そうな感じがして。組織のストレスないのかしらみたいな。
―― そうかもしれませんね。でも、この絵本の中のありにはそんな雰囲気はなくて。
中村:観察している子どものまなざしで描いているのだけれど、あんまり実際にその通りに描いちゃうと、ちょっと残酷と言いますか、不気味な感じになっちゃうから、ユーモラスな雰囲気も出してね。ビー玉に驚いて足をひしゃげさせたみたいな。
林:こういう慌てているところの感じは、実際にありはそうなっているかどうかっていうのは、また別で。
中村:こんなふうにならないですよね。こんな足の形になることはあり得ないです。
林:驚いたり、ちょっとうれしそうな表情をしたり・・・。それがないと、固くなっちゃうからね。全体的に一本調子になると困るので。気持ちを表わしているというのもあるんです。

■ 色とデザインへのこだわり
―― ありの行列の絵と字のバランスっていうのも、すごく大きいのかなと思うんですけれども。そういう部分のこだわりはいかがですか?
中村:ほかには何も要素がないですからね。例えば、色々と絵が描き込まれているようだったら、それ程でもないですけど。結局この本は、文章とこのありしかないですし、色もピンクと黒しかないですから。その辺はやっぱりこだわりました。行列を配置する時には、例えば、「はみでない」という文のところは、ページの上ぎりぎりにしてもらうとか、「あ、ななめ、これは絶対やりたいな、いいな」とか。
林:最後はもう、一直線に行った方がいいと。目的物が見つかった時はもうまっすぐに。
―― なるほど。絵本の中でありさんがどう進んで行くかというような事は、ご一緒に考えられたりするんですか?
中村:画面の中をこう行ったりとか、とにかく端っこを行列だけで行きたいなど、最初にそういうレイアウトの希望は私が言うんです。じゃあ、このページにこう来たら、次はどう行くかみたいなのはすごく相談しますね。ここで上に行ったから、今度はこっちに這わせたいみたいなことを。ですから、この本の場合は、最初にイメージはもう決まっていて。「あとは絵を頑張って下さい」って。
一同:(笑)。
―― 表紙の色の鮮やかなピンクがすごく印象的。絵本の中のデザインが出来上がってから決定されたのですか?
林:中のページが白で単純明快ですからね。外側の表紙を複雑にしたり、分かりにくくするとバランスが悪くなるので、中の延長線上で考えて。
中村:描き込まないで、シンプルに、簡潔にね。
林:でも、色は冷たい色じゃなくて、最後に登場するクッキーに合うお菓子のイメージ、お菓子屋さんのイメージでピンクにして。
中村:アマンドみたいな色ですね(笑)、色味的には。(有名な洋菓子屋さんのイメージカラーも鮮やかなピンク!)
林:マゼンダ100パーセントっていう、こんな色を使ったのは初めてでしたね。クッキーというので、オレンジ系というのも考えたんですけど、やっぱり甘いピンクのほうがいいかなって感じがして。子どもっていうことがありますよね。まずは子ども好みっていうイメージもあって。
―― その色味自体に甘さとか、雰囲気とか、そういイメージがあるということで使われているんですね。
中村:中がけっこうクールなので、外側は甘ったるく。表紙も同じイメージだったら冷たくなってしまうでしょうしね。
林:他の本と違った方が、パッと見て目立つというのもありますけどね。

―― この表紙の字体も林さんがデザインをされているそうで。
林:そうですね。最初は普通の活字を使っていたんですけど。これは、一度太いマジックインクで、「あ」からずっと書いて、ある程度スタイルがこれでいいなというのを選んで、置いてみて。書面にしたときに、これでいいかなと決めてから、それをトレースして。それで、柔らかく描きすぎたものを、固めにまとめたんですね。ただ、あんまりそれも、冷たい感じじゃなくて。そうやって「あ」から「ん」まで全部作っています。そのあと片仮名、平仮名を作って置いてあるので、それで文章もまとめようと思えばまとめられたんですけどね。実際にやってみたら、作り過ぎた感じでよくなくて。結局、中は活字なんですけど。今後、機会があれば、それを文章にもできるかなと思って自分でファイルしてあるんですけどね。
中村:その辺は、この人はイラストレーターじゃなくてデザイナーですから、職業柄そっちのほうのこだわりが強いですね。
―― この帯の文章は中村さんが考えられたそうで!すごく効果的ですよね。ああ、そういうふうに読めばいいんだっていう導入をしてくれる。プロの方にはとても失礼なんですが(笑)、さすがと思ってしまう。
中村:ええ、これはちょっと苦労したんです。自分のものに帯のコピーを付けるというのは、いいのかしらっていうためらいがありましたので。でも、まあ、やらせていただいて。自分のものを宣伝するみたいな感じは避けて、「見つめることや見守ることは愛することに通じる」という思いを込めました。

▲帯文の前、後より。
■ 完成してみて・・・
―― 子どもたちにはどんなふうに楽しんでほしいですか?
中村:やっぱり、今のお子さんというのは、マンションの上の階に住んでいる方も多いですよね。昔だったら、ありなんかは誰でも一度は見たことがあるんじゃないかと思うんですけど、庭もなくアスファルトの道を通って幼稚園へ行くようなことがありますから、そういう機会が減ってますよね。こういう絵本をきっかけに、どこかの道を歩いたときにありがいて、「あ、ありだ」なんて目を止めてくれたら嬉しいな、と思います。まずはそれがきっかけになって、更に行列まで見つけてくれたら、すごく嬉しいですね。今はなかなかね、そういうのを見る機会もないんじゃないかって思うんです。
―― 完成してみて、面白かったとか、大変だったという部分はありましたか?
中村:作っているときはそれなりに頑張って大変なつもりでいて、このページをもっと良くできるかな、というのがありますね。できてしまうと、「あ~、こんなものか、大河の一滴」って感じなんで、ちょっとがっかりするんですけど。
一同:(笑)。
―― じゃあ、わりとできあがる工程を楽しまれているんですか?
中村:そうですね、どっちかって言えば、そう。でも、たくさんある絵本の中の1冊ですから、「この絵本がどこかで目に止まるかしら」っていう思いがいつもありますね。
林:作っている時が一番盛り上がるというのは、誰でもそうじゃないですか。絵本ができたときは、今までで一番いいものができたと思って、やっているんです。
中村:この人はね、いつもそう言っているんです。
林:もう、その時期はね、これが一番いいものだって思ってますよね。
中村:平和な人です。
一同:(笑)。

■ 初めての絵本、『ふしぎなナイフ』
―― 絵本作家としてのお二人についても、少しお伺いいたします。最初の作品は『ふしぎなナイフ』。それまでお二人とも広告に関連するお仕事をされていたと思うのですが、絵本を描かれるというきっかけは何かあったのでしょうか?

『ふしぎなナイフ』 中村牧江・林健造 さく 福田隆義 え 福音館書店刊
中村:『ふしぎなナイフ』を制作していた頃は、本当に絵本業界とは全然関係なくて、広告の世界で仕事をしていたわけですね。林が、「絵本をやりたい」っていうことを常々、言っていたけれど、何となく聞き流していて。ただ「ナイフのフォルムがすごく美しい」「ナイフの形にひかれる」なんてことを言っているのは心にとまっていたんです。
何かの時に、それだったら、ナイフで絵本ができるんじゃないかなと思ったんですね。じゃあ、どうやったら絵本ができるかなって思ったときに、絵本のことは何にも知らないですからね。知らない強みというのもあって。
よく子どもがお膳に水なんかをこぼすと、すぐ手のひらでばーっと触りますよね。そうすると大人は「いけません」って言うけど、いたずらをしているんじゃなくて、全身で確かめているんですね、こぼした水の感触とかいろいろ。だから、もしナイフを持たせたらやっぱり、いろいろやるんじゃないかと。
ナイフに限らず、小さい時に、お茶わんをおはしでチンなんてやると、「そういうことをしちゃいけない」って叱られましたよね。大人が見ると、食器をおもちゃにしちゃいけない、というのがありますけど、子どもに、もし自由に手に持たせたらやっぱり、引っ張ったり、つまんだり、落としたり、試したいんじゃないかなと。最初はそういう感じで考えていて。さらにそれをもっとシンプルにしてったのです。
こういう絵本って今までなかったと思うんですけど、それは私たちがなまじ絵本は、こうあるべきだということを知らなかった故だと思います。

―― 確かに、視点や発想の出発点がちょっと違う気がしますね。
中村:だから、出版社に何社か持って行ったいきましたけど、みんな「駄目」って言われました。要するに、「こんなものあり得ない」といった感じですよね。
林:「ナイフなんて、危険だ」というのはね、よく言われましたよ。
中村:「言葉が少ないから、すぐおしまいまで行っちゃうじゃないか」とも言われましたね。お母さんは、「買っても損をした」と言うって。どんどんめくって、あ、ねじれる、はい、折れる、はい、すぐ終わりってなるから、「そんなものにお金出して買わないですよ」って言われたこともありますね。でも自分達は気に入っていましたから、めげずに何社も回って。
林:採用して下さった編集の方は、「いや、刺すナイフとこれは別のものだから」って、最初にそう言ったんですよ。「今までこういう風に言われたけども」と言ったら、「いや、それは違うものだ」「面白い」と言って。「これは作りたい」っていう結論が出たんですよね、その場で。
中村:それで、その頃は、林がリアルな絵を描くのにもう一つ自信がないっていうんで、福田隆義さんに描いてもらって。その方は広告の世界でリアルな絵を専門に描いていらしたんですよね。それでお願いをしたわけです。
例えば、自分では、「ほどける」っていうページが気に入っているんです。やっぱり子どものころに、昔、母親がセーターなんかを編んでくれるときに、古いセーターをほどいているのを、手で持たされて巻き取っていくような、そういう経験があったものですから、すぐに「ほどける」というのを思い付いたんです。
大きくなったり小さくなったりっていうのはそれこそ、『ガリヴァー旅行記』じゃないんですけど、視点を変えれば、すぐに関係は逆転するわけですよね。それで「ちぢんで」っていうようなことを思いついて。
―― この絵本は発売されてから20年ぐらい経っていて、いまだにすごく人気があって、沢山の反応があるかと思うんですけど。そういう状況について、どう感じられますか?
中村:それは、もの凄くありがたいことですし、励みにもなるし、やっぱり嬉しいですね。何て言うんでしょう、ささやかな幸せを感じますね、そういう声を読んだときにね。作った時は、そういうことも何も考えていなかったんです。ただ自分たちで気に入っっていたというだけで。
今までのレビューの中で、一番嬉しかったのは、どなたか忘れましたけども、お母さんだったと思うのですが、「この世の中に、こういうくだらないことをまじめに考えている大人がいるっていうことが、すごく嬉しい」とあったんですよ。「ばかなやつね」って言って下さって愛して下さっている、という感じがとても嬉しかったんです。
■ 子育てと絵本と・・・
―― 絵本を制作される時のヒントとして、ご自身の子どもの頃の記憶の他に、子育ての経験も影響されているのでしょうか?
中村:自分が小さかったときの記憶と、自分が子育てをしたときの記憶、両方ですね。『てをみてごらん』は、子どもを、公園に連れて行った時に、ちょうど桜の終わりかけの季節で、花びらがバーッと散ってきたんです。そうしたら、何度も子どもが手で受け止めようとして、そのときに、「ああ、子どもってこういうことするんだ」と思って。必死でこうやって受け止められないんだけど、一生懸命こうやって、そういうイメージですね。だから、やっぱり自分の経験した事と、子どもってそうなんだっていうのが、基調になっているんですね。

『てをみてごらん』 中村牧江・さく 林健造・え PHP研究所
―― その作品でもやっぱり、言葉と絵が同時に浮かびあがって?
中村:ええ。ほとんど同時進行ですね。アイデアというものが浮かんで、それで全体の構成っていうのか、流れが同時に浮かんでくるんです。すると(林さんが)紙で上手に作ってくれる。前に、何か紙でやっていたなということを知っているから、「これを紙でやらない?」みたいに持ちかけると乗ってきてくれて、それできれいな手を紙で作ってくれるっていう感じでしたね。
―― そうやって、どんな絵を描くのかなっていうのを熟知されていて、アイディアの段階からもう組まれているっていうのは凄ことですよね。そんな林さんにとって、絵本というのは、もともと意識はされていたんですか?
林:(絵本を描く前は)僕はデザインをやりながら、生活を含めてね、一生懸命仕事を覚えるとか、いい仕事をしようと広告の方に夢中になっていましたね。
一方で、書店に行った時に、自分の為に買ってきた絵本3冊がありましてね。日本の作品ではなかったんですけど。自分が絵本を作れるとは思わなかったんですけど、楽しむほうならいけるだろうなと思って。広告の仕事と絵本はちょっと距離があったという事もあって、一般的な感覚で「これは面白い」というのはありましたね。魅力は感じていたんですよね。(その選んだ絵本も)いい絵本でしたしね、展開も面白い。展開がいいっていうのは興味を惹きますね。広告の仕事をやっていたというのもあるのかもしれないけど、1枚のこの画面で見てっていうんじゃなくて、次はこの流れで、何もないけど、前との関係でいいとかね。そういう特性みたいなものが絵本の中にある面白さというのか、最後に閉じたときに、「何か、よかったなあ」という感じがありましたね。
中村:と言いつつもね、自分の子どもが絵本を読む年ごろのときに、殆ど読んでやったことないんですよ。
一同:そうんなんですか (笑)。
林:自分がね、やりたいことがね、そのときは目いっぱいあったんですよ。それは、言い訳かもしれないね。

中村:私はもう、母親ですから。私はけっこうたくさん読んでやっているんですね、子どもに。あとは紙芝居なんかも、よく図書館で借りてきてやったりしてね。
それが、子どもが幼稚園なんかに行きはじめて、忙しさが一段落したころに、林が「絵本を作りたい、作りたい」って言いだして。言うだけだけだったの、それも。実際、子どもに絵本を読んであげていないし、買ってこないしっていう人が、何で「作りたい、作りたい」って言うのかなっていうようなね。でも、そんなに作りたいんだったらやっぱり、この人が興味を持っている世界というのはある程度分かりますから、そのなかで、何か考えればできるんじゃないかみたいな、そういう感じですね。
林:自分だけが楽しみたいという気持ちがありますし、身内のほうは何となく照れくさいですよね。
中村:わが子に絵本を読むのが照れくさいって。ねえ。
一同:(笑)。
―― 絵本の制作は、お子様が少し大きくなられてから?
中村:ええ、そうですね。上の子が小学生で下の子が幼稚園ぐらいだったと思います。それでも子どもの反応を見ながら作る、そういうゆとりはなくてね。それよりは、自分たちが面白いなと思うものを作っていましたね。ですから、子どもが生まれたことで作品内容が変化したっていう事はなかったですね。
■ 絵本づくりのおもしろさ
―― 絵本をつくられるようになって、一番面白い瞬間というのはありますか?
中村:それはやっぱり、自分が何かのアイディアを言ったときに、乗ってきてくれた時ですね。もしかして独りよがりかも分からないけども、自分がいいなと思って、こういう感じで、こういう構成で、こういうふうに使ったらどう?って言って。「あ、それ行こう」という風になった時。何か出来そう、生まれそう、という時ですね。
林:逆もありますよ。僕が、「絵の面白いの、考えたんだけどな」と言うと、「面白くないねえ」って言われて(笑)。そういう時はね、どんなにしてもね、そこはもう絶対に駄目でね。面白いと思っているのになあ、って言うのは沢山ありますよ。
中村:やっぱりほら、どうでもいいアイディアでも、他人だったら、よく考えてから言おうとかっていうのがありますよね。だけども、身内だからって、お互いにちょっと一言つい言っちゃうと、「ええ」って、「よくそんなこと言うわね」って(笑)。
―― お二人の視点から見る絵本というものの捉え方は、他の作家さんとはまた違うのかなと思うのですが。
中村:そうですね、優秀な絵本作家の方っていうのは、子どもというものをよく分かっていらして、こういうふうにしたら子どもが喜ぶだろうとか、こういうふうにしたら受けるだろうってすごく心得ていらっしゃる。私たちはいまだに分からないようなところがたくさんあって、案外と自分が子どもっぽいようなところから入っていくんです。こうしたら子どもの為になるとか、こうしたら今の子に受けるという風にはあまり考えない、考えられないんですよね。そういうのを度外視したところで、自分たちが面白いかどうかで作っているみたいなところがありますね。
―― なるほど。では、今後こんな絵本を作ってみたいというアイデアは、たくさんあるのでしょうか?
中村:やっぱり、その時まかせなんですよね。だから分からないんですよね。そこがやっぱり、絵本作家っていうことではないと思うんです。いまだに何て言うか、絵本作家なんて言われると、そんな大それた存在じゃありませんていう感じで、自分で引いちゃいますね。
林:シリーズとか、続きものはあんまり出てこないかもしれません。1冊1冊がその時によって生まれてくる作品ですから。プランも違いますけど。それに、全然違うものをやりたいなという気持ちはいつもありますね。
■ 絵本ナビ読者の皆さんへ・・・
―― 最後に、絵本ナビ読者の皆さんに向けて、簡単なメッセージをお願いできますか?
中村:絵本って、長くても開けている時間はせいぜい5分ぐらいですね。でもその5分の間に、お母さんと子どもなのか、お姉ちゃんと弟なのか分かりませんけど、誰かと誰かがちょっとだけ楽しい、ちょっとだけ違う世界に入り込めるっていう、その事が一番嬉しいですよね。見知らぬ誰かが、どこかでそういう時間をほんの5分持ってくれるっていう事が。その事が喜びというか。だから、こう読んでくださいなんて、そんなことは全然もう思いません。とにかくほんのひと時だと思うんですけど、どこかの誰かがちょっと、目と目を合わせてニッコリしているっていうことがあったら、もうそれで十分、それ以上は何にもいらないという感じですね。
―― 林さんはどうでしょうか?
林:うーん、思い付かないねえ。
中村:見てくれる人がいれば幸せっていう。
林:そう、それですね。
一同:(笑)。

ありがとうございました!
インタビューの内容からも伝わっているかと思うのですが、とにかくお二人の呼吸がぴったりといいますか、面白いといいますか(笑)。笑いの絶えない、楽しくて優しい時間を過ごさせて頂きました。
タイプは全然違えど、広告や美術の世界の第一線で活躍されてきたお二人。同時に「これは面白い」と思われた瞬間に、新しい作品が生まれてくるというのが、とても新鮮で印象的なエピソードでした。
▲最後に記念にパチリ。
今回取材にご協力頂いた、編集の方にとっても、お二人の存在は特別だったそう。大人になってから出合った『ふしぎなナイフ』という絵本に衝撃を受けられて、いつかお仕事ができればと思っていたそうなのです。『ありさんどうぞ』のラフを見た時に、お二人ならではのデザインセンス、子どもにこびたところがない、そういう部分がやっぱり魅力なんだと改めて思って、「これは是非やらせてください」とおっしゃったそうです。
そんな大切なこの一冊もまた、世代を超えて子ども達に親しまれていくといいですね。

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